「涼」という文字は象形文字で、「京」が高い丘にある建物を示し、「氵(さんずい)」がついて、「風通しが良く、水が冷たい」様子を表すと言われています。日本には、自然と共に暮らす文化があり、夏の季節には、窓を開け、縁側に風鈴をつけ、風の音を聴きながら涼むことがあります。私は、ここ数年、こんな場面に強く憧れてきました。

私は数年前からシンガポールに活動の拠点を移し、シンガポールと東京とを行き来する生活を続けています。亜熱帯の地であるシンガポールは、年中暑い印象がありますが、実際には冷房が強く効いており、室内では寒く感じることも多くあります。そんな暮らしが長く続くと、暑いから冷やすという一辺倒なやり方に、なんだか違和感が生まれてきました。日本でも夏の都会では同じような生活ですが、少し都会を離れれば、直接冷房で部屋を冷やすことよりも、風通しが良いほうが、心地良いと感じる人も多いのではないでしょうか。そのキーワードが「涼む」という言葉ではないかと思うのです。

風鈴以外にも「涼む」方法はあります。木陰や水辺に行くことはもちろんですが、美術館で透明感のある絵を眺めたり、軽やかな音を聴くことでも涼しげな気持ちになることはできます。物理的な冷たさよりも、心に風が通ることを感じることのできる暮らしでありたい。そう願うことから、「KORAI」という旅は始まりました。

都会の暮らしの中では、人と人とが身を寄せ合いながら、狭い空間を分かち合わねばなりません。窓を閉めれば、静かな個別の空間は生まれるかもしれませんが、それが長く続いてしまえば、暮らしに変化はなくなり、窮屈な気持ちを生み出してしまうのかもしれません。「涼む」ということは、窓を開けることから始まります。外の空気を取り入れ、大きく息を吸い込むことが第一歩。自然の変化は、時として、心に穏やかな風を通してくれるのです。

文:柴田裕介、写真:須田卓馬